- はじめに
- 信託財産とは?
- 不動産を信託財産とする場合
- 賃貸不動産は民事信託と相性がよい場合があります
- 預貯金は、そのまま信託できるわけではありません
- 年金を信託することはできる?
- 受農地など、特別なルールがある財産には注意が必要です
- 信託財産は、受託者個人の財産とは区別されます
1. はじめに
民事信託では、どんな財産を託せるのでしょうか?
「自分が財産を管理できなくなっても、子どもに不動産や預貯金の管理を任せたい」
このような場合に活用できるのが、民事信託です。
ただし、民事信託は、どんな財産でも自由に信託できるわけではありません。
財産の種類によって、信託できるもの、信託できないもの、信託するために特別な手続が必要なものがあります。
さらに、信託した財産を売却した場合や、その財産を利用して別の財産を取得した場合などには、その結果として受託者が取得した財産も信託財産となることがあります。
そのため、民事信託では「何を信託するのか」だけでなく、「信託した財産が将来どう変化するのか」まで考えて設計することが大切です。
2. 信託財産とは?
民事信託では、財産を託す人を「委託者」、財産を管理する人を「受託者」、信託によって利益を受ける人を「受益者」といいます。
そして、委託者から受託者に託された財産を「信託財産」といいます。
例えば、以下のようなものが信託財産として検討されます。
- 預貯金
- 現金
- 自宅などの不動産
- 賃貸不動産
- 株式などの有価証券
信託した財産から生じた財産も、信託財産になります
信託法では、委託者が受託者に託した財産のほか、信託財産の管理、処分、滅失、損傷その他の事由によって受託者が得た財産も、信託財産となるという考え方が採られています(信託法16条1号)。
例えば、以下のような場合、信託財産となると扱えられたり、信託財産として扱われる場合があります。
(1) 賃貸アパートを信託財産とした場合
賃貸アパートの賃料も信託財産となります
(2) 信託した不動産を売却した場合
例えば、父親が不動産を信託財産として子どもに託した後に売却した場合、信託財産を処分したことによって受託者が取得した売却代金も、原則として信託財産として扱われます。
(3) 信託財産を担保に借り入れた場合
同じように、信託財産を担保として借入れを行い、その結果として受託者が取得した金銭についても、信託財産として扱われる場合があります。
このように、民事信託では「最初に何を信託したか」だけでなく、「その財産が信託期間中にどのような形に変わるのか」まで考える必要があります。
これは、民事信託を設計するうえで非常に重要なポイントです。
3. 不動産を信託財産とする場合
自宅などの不動産も、民事信託の対象にすることができます。
例えば、以下のような場合に、民事信託が選択肢となることがあります。
- 認知症になった後も自宅を適切に管理したい
- 将来、自宅を売却する必要が生じた場合に備えたい
ただし、不動産の信託には注意が必要です。
自宅を信託する場合には「修繕費などの支出」は信託債権となり、受託者は、信託財産からだけでなく、自己固有の財産からの支払いをしないといけない場合があります。
4. 賃貸不動産は民事信託と相性がよい場合があります
賃貸アパートや賃貸マンションなどについては、民事信託を活用することで、受託者が不動産の管理を行いやすくなる場合があります。
例えば、以下のような不動産管理について、受託者が行うことができます。
- 賃料を受け取る
- 修繕を行う
- 管理会社との契約を行う
- 必要な費用を支払う
- 新たな入居者と契約する
ただし、賃貸不動産についても、契約関係や借入れ、修繕、税務など、確認しておくべき事項は少なくありません。
不動産の修繕費など、信託債権として、受託者が自己の財産から支払わないといけない可能性があるのは、自宅と同じです
5. 預貯金は、そのまま信託できるわけではありません
単純に、ご本人名義の預金口座を「信託財産」にすることはできません。
預金債権には、銀行との契約上、譲渡禁止に関する定めが置かれていることがあるためです。
そのため、実務上は、例えば、以下のような方法が取られます。
- 委託者名義の口座から預金を払い戻す
- その金銭を信託財産として受託者に引き渡す
- 信託口口座などで信託財産として管理する
つまり、「通帳を子どもに預ける」だけでは、預貯金口座の中にあるお金を信託財産とすることはできません。
適切な手続を踏んで、信託財産と受託者個人の財産を区別して管理することが重要です。
6. 年金を信託することはできる?
「将来受け取る年金も、子どもに管理してもらいたい」というご相談をいただくことがあります。
しかし、年金受給権は法律上譲渡することができないため、将来受け取る年金そのものを信託財産にすることはできません。
民事信託は、これから受け取る年金を家族に管理してもらうための制度ではありません。
一方で、すでに保有している預貯金などについては、民事信託による管理を検討できる場合があります。
したがって、「将来入ってくるお金を信託する」のではなく、「現在保有している財産を、将来にわたってどのように管理するか」という視点から考えることが重要です。
ただし、信託契約後に受給した年金がたまった預貯金を、下ろして信託口口座に入れるなどして、新たに信託財産として加えるといったことは可能です。
7. 農地など、特別なルールがある財産には注意が必要です
農地や採草放牧地については、一般の宅地や建物とは異なる規制があります。
農地法による許可などが問題となるため、「不動産だから当然に民事信託できる」と考えることはできません。
農地をお持ちの方が民事信託を検討する場合には、信託契約を作成する前に、農地法上の手続などを確認する必要があります。
財産の種類によって、民事信託の設計は大きく変わります。
8. 信託財産は、受託者個人の財産とは区別されます
民事信託には、信託財産の独立性という重要な特徴があります。
信託された財産は、受託者個人の財産とは区別して管理されます。
例えば、父親が1,000万円を子どもに信託した場合、その1,000万円が「子どもの自由な財産」になるわけではありません。
子どもは、受託者として、信託の目的にしたがって、その財産を管理・処分する立場になります。
そのため、信託財産については、受託者自身の財産と混同しないよう、適切に管理することが重要です。
また、信託財産については、一定の場合に強制執行の制限が認められるほか、受託者が破産した場合にも、原則として受託者自身の破産財団とは区別されます。
これも、民事信託における「信託財産の独立性」の重要な意味の一つです。
「何を信託するか」は、民事信託の設計で最も重要なポイントの一つです。
ここまでご説明したように、民事信託では「財産を信託する」と一言(ひととこ)でいっても、実際にはさまざまな検討が必要です。
例えば、以下のような事を、あらかじめ考えておく必要があります。
- 自宅を信託するのか
- 賃貸不動産を信託するのか
- 預貯金をどのように信託するのか
- 年金はどう扱うのか
- 農地について特別な手続が必要ではないか
- 信託した財産を将来売却する可能性はないか
- 売却代金など、信託財産から生じた財産をどう管理するのか
- 受託者にどこまでの権限を与えるのか
そして、これらはご本人の財産状況や、ご家族の事情、将来の生活設計によって変わります。
だからこそ、民事信託は「インターネットで契約書のひな型を探して作ればよい」というものではありません。
ご本人が元気なうちに、ご家族と将来の財産管理について話し合い、その内容を法律的に適切な形に設計しておくことが大切です。
民事信託を検討している方は、契約を作る前にご相談ください。
「認知症になったら、財産の管理はどうなるのだろう」
「子どもに不動産の管理を任せたい」
「預貯金を含めて、将来の財産管理を家族に任せたい」
「自宅を信託したほうがいいのか分からない」
「そもそも、自分の場合に民事信託が必要なのか分からない」
このような不安をお持ちでしたら、まずは一度、弁護士にご相談ください。