【民事信託】弁護士解説|信託監督人・受益者代理人とは? 役割や必要性・権限

民事信託では、受託者が信託財産を管理・運用します。しかし、受託者が家族である場合、「適切に管理されているだろうか?」「不正が起きないだろうか?」と不安になることもあります。
そこで重要な役割を果たすのが、信託監督人と受益者代理人です。
これらは平成18年の信託法改正によって整備された制度であり、受託者を監督し、信託が適切に運営されるよう支える役割を担います。
この記事では、それぞれの違いや、弁護士が就任するメリット、権限や義務について分かりやすく解説します。

  1. 信託監督人・受益者代理人とは
    1-1. 弁護士が信託監督人や受益者代理人になることはできる?
    1-2. 信託監督人には専門家が就任することが想定されている
    1-3. 家族信託では信託監督人を置くべき?
    1-4. 日弁連ガイドラインの考え方
    1-5. 信託監督人を置く実務上のメリット
     1-5-1. 後継受託者への引継ぎがスムーズになる
     1-5-2. 受託者への適切な監督
     1-5-3. 財産管理へのアドバイス
    1-6. 信託監督人・受益者代理人に欠格事由はある?
  2. 信託監督人の権限
  3. 受益者代理人の権限
  4. 信託監督人・受益者代理人の義務
    4-1. 善管注意義務
    4-2. 信託監督人の誠実義務
  5. 信託監督人・受益者代理人は辞任できる?
  6. 信託監督人の任務が終了する場合
  7. 費用や報酬はどうなる?
  8. 受益者代理人がいる場合、受益者本人の権利はどうなる?
  9. 家族信託では監督機関を設けることが重要

1. 信託監督人・受益者代理人とは

信託監督人と受益者代理人は、いずれも受託者を監督し、受益者の利益を守るための制度です。
違いは、信託監督人は主に監督が仕事ですが、受益者代理人は、受益者の権利に関する一切の行為をする権限を有します(信託法139条)。
特に家族が受託者となる民事信託では、第三者によるチェック機能として重要な役割を果たします。

1_1. 弁護士が信託監督人や受益者代理人になることはできる?

弁護士が継続的に受託者となって信託業を営むことは、信託業法との関係で問題となります。
もっとも、信託業法では「信託監督人」「受益者代理人」については規制の対象として定められていません。そのため、弁護士がこれらの立場に就任しても、信託業法違反にはなりません。

1_2. 信託監督人には専門家が就任することが想定されている

平成18年(2006年)の信託法改正時の解説では、信託監督人には「弁護士」「公認会計士」などの専門家が選任されることが多いと想定されていました。
専門家が関与することで、法的な問題や財産管理上のリスクに適切に対応しやすくなります。

1_3. 家族信託では信託監督人を置くべき?

実務では、家族が受託者となる民事信託では、原則として信託監督人または受益者代理人を設置することが望ましいという考え方が有力です。

1_4. 日弁連ガイドラインの考え方

日本弁護士連合会の「民事信託業務に関するガイドライン」でも、信託監督人・受益者代理人について、以下の点が示されています。

  • 受託者に対する実効性のある監督を行うため
  • 原則として信託監督人または受益者代理人を設置すること
  • 信託契約の締結に関与した弁護士が就任することが望ましいこと

1_5. 信託監督人を置く実務上のメリット

信託監督人を設置すると、法律上の権限だけでなく、実務上もさまざまなメリットがあります。
例えば、次のような場面で役立ちます。

1_5_1. 後継受託者への引継ぎがスムーズになる

受託者が死亡した場合、信託契約で後継受託者を定めていれば、その後継受託者へ円滑に信託事務を引き継ぎやすくなります。
また、後継受託者が決まっていない場合には、信託監督人が利害関係人として、信託法第64条第4項に基づく新受託者選任の申立てを裁判所へ行うことも考えられます。

1_5_2. 受託者への適切な監督

信託監督人がいることで、以下の点を第三者の立場から確認しやすくなります。

  • 信託財産が適切に管理されているか
  • 横領などの不正がないか

1_5_3. 財産管理へのアドバイス

例えば、以下のような件について助言を行うことも期待できます。

  • 年1回の財産目録の作成
  • 収支計算書の作成
  • 信託事務の適切な進め方

1_6. 信託監督人・受益者代理人に欠格事由はある?

成年後見監督人や任意後見監督人には、法律上の欠格事由が定められています。
一方で、信託監督人や受益者代理人については、信託法に明確な欠格事由の規定はありません。
もっとも、日本弁護士連合会のガイドラインでは、成年後見監督人などの欠格事由の趣旨は、信託監督人や受益者代理人にも妥当すると考えるべきであるとされています。

また、信託監督人の任務終了事由を定める134条は、56条の受託者の任務終了事由を準用しており、その中に「死亡、後見若しくは保佐の開始または破産手続きの開始(56条1項1~3号)」がありますので、これらに該当する人は、信託監督人にはなれないでしょう。

2. 信託監督人の権限

信託監督人には、信託法第132条第1項に基づき、受益者に代わって一定の権利を行使する権限があります。
これは、信託法第92条に定められた、信託契約によっても制限できない受益者の権利を中心とした権限です。例えば、23条5,6項にある、信託財産に対する強制執行、国税等の滞納処分(ただし、信託財産責任負担債務に係る債権を除く)に対する異議などです。

《 信託監督人の権限から除外されるもの 》
もっとも、すべての受益者の権利を行使できるわけではありません。
例えば、以下のような権利は、信託監督人の権限から除外されています。

  • 受益権を放棄する権利(第92条17号・第99条)
  • 受益権取得請求権(第92条18号・第103条)

3. 受益者代理人の権限

受益者代理人には、信託法第139条第1項により、受益者が持つ信託法上の権利を包括的に行使する権限があります。
ただし、信託契約で別段の定めをすれば、その権限を制限することもできます。

4. 信託監督人・受益者代理人の義務

4_1. 善管注意義務

両者(信託監督人・受益者代理人)とも、善良な管理者として注意深く職務を行う義務(善管注意義務)を負います。

  • 信託監督人(第133条第1項)
  • 受益者代理人(第140条第1項)

4_2. 信託監督人の誠実義務

信託監督人には、善管注意義務に加えて、誠実に職務を行う義務(第133条第2項)も課されています。

5. 信託監督人・受益者代理人は辞任できる?

信託監督人や受益者代理人が辞任するには、原則として「委託者」「受益者」の同意が必要です(第57条第1項を準用)。
もっとも、信託契約で別の定めを置くこともできます。

6. 信託監督人の任務が終了する場合

信託監督人の任務終了については、受託者の任務終了事由(信託法第56条)が準用されています。
例えば、以下ののょうな事由によって任務が終了します。

  • 死亡、後見若しくは保佐の開始または破産手続きの開始
  • 辞任
  • 解任

7. 費用や報酬はどうなる?

費用や報酬については、信託管理人に関する信託法第127条が準用されます。
具体的には「職務に必要な費用の償還を請求できること」「報酬は、商法第512条の適用がある場合や、信託契約で定めがある場合に請求できること」とされています。

8. 受益者代理人がいる場合、受益者本人の権利はどうなる?

受益者代理人が選任されると、受益者本人は自由にすべての権利を行使できるわけではありません。
信託法第139条第4項により、以下の権利を除き、原則として受益者代理人が権利を行使します。

  • 信託法第92条の権利
  • 信託契約で受益者本人に残すと定めた権利

そのため、受益者本人にも一定の権限を残したい場合には、あらかじめ信託契約でその内容を定めておくことが重要です。

9. 家族信託では監督機関を設けることが重要

家族信託では、受託者が家族であることが多いため、財産管理の透明性を確保し、将来的なトラブルを防ぐためにも、信託監督人や受益者代理人といった監督機関を設けることが重要です。

特に弁護士が信託監督人や受益者代理人として関与することで、以下のような点が期待でき、民事信託をより安心して運用しやすくなります。

  • 受託者への適切な監督
  • 後継受託者への円滑な引継ぎ
  • 信託事務に関する法的な助言