【福岡の民事信託】弁護士が解説|信託口口座の開設方法とは?開設時の注意点

民事信託では、信託財産を適切に管理するために信託口口座(しんたくぐちこうざ)を開設することが一般的です。
もっとも、信託口口座は通常の銀行口座とは異なり、金融機関ごとに審査基準や必要書類が異なります。信託契約の内容によっては、口座開設を断られるケースもあります。
この記事では、信託口口座を開設する際に知っておきたいポイントや、金融機関が重視する点について解説します。

  1. 信託口口座とは?
  2. 公正証書による信託契約がないと口座開設はできない
  3. 銀行により求められる条件
    3-1. 後継受託者が定められていないと口座開設を断られることがある
    3-2. 信託監督人や受益者代理人の設置を求められる場合もある
    3-3. 信託関係者の本人確認書類を求められることがある
  4. 受託者が死亡した後、新受託者はそのまま口座を使える?
  5. 受託者の払戻権限に過度な制限を設けることは慎重に考える
  6. 信託契約を作る前に銀行へ相談することが重要

1. 信託口口座とは?

信託口口座とは、受託者が信託財産を管理するための専用口座です。
信託法第34条では、受託者は自分の財産(固有財産)と信託財産を区分して管理する義務を負っています。
条文上は、預貯金について必ず信託口口座を開設しなければならないとは規定されていません。しかし、実務では、受託者個人の口座とは分けて管理するために、信託口口座を開設することが一般的です。

2. 公正証書による信託契約がないと口座開設はできない

実務では、多くの金融機関が信託契約書を公正証書で作成していることを口座開設の条件としています。

なぜ、公正証書が求められるのか?

信託口口座の名義人は受託者ですが、信託契約を締結した際の委託者本人の意思を、金融機関が直接確認する機会はありません。
そのため、公証人が本人確認や意思確認を行った公正証書であれば、信託契約の真正性を確認しやすいという理由から、公正証書を求める金融機関が多くなっています。

3. 銀行により求められる条件

信託口口座の開設に求められる条件は、銀行により違います。
以下、銀行によっては、口座の開設の条件として求められることがあり得る条件です。

3_1. 後継受託者が定められていないと口座開設を断られることがある

信託契約に後継受託者の定めがない場合、金融機関が信託口口座の開設を認めないケースがあります。
その理由は、以下のとおりです。

受託者が死亡すると、その受託者の任務は終了します(信託法第56条第1項第1号)。
もっとも、受託者が亡くなっただけでは信託契約自体は終了しません。
しかし、新しい受託者が決まるまで時間がかかると問題が生じます。
信託法第163条では、受託者が不在の状態が1年間継続すると、信託は終了すると定められています。
そのため、金融機関としても、あらかじめ後継受託者が定められている信託の方が、安全に管理できると考えています。

3_2. 信託監督人や受益者代理人の設置を求められる場合もある

金融機関によっては、以下のような信託関係人を設置することを口座開設の条件としている場合があります。

  • 信託監督人
  • 受益者代理人

これは、受託者を第三者が監督することで、以下のような目的があるためです

  • 受託者の暴走を防ぐ
  • 信託財産の適切な管理を確保する

3_3. 信託関係者の本人確認書類を求められることがある

信託口口座の口座名義人は、受託者なので、受託者の本人確認書類等が求められるのは当然です。

しかし、口座開設時には、受託者だけでなく、信託に関わる人の資料提出を求められることがあります。
例えば、「委託者」「受益者」「信託監督人」「受益者代理人」などについて、以下の資料提出を求められる場合があります。

  • 戸籍謄本
  • 身分証明書
  • その他の本人確認書類。

4. 受託者が死亡した後、新受託者はそのまま口座を使える?

受託者が死亡すると、その受託者の任務は終了します(信託法第56条第1項第1号)。
もっとも、信託契約自体は終了しません(信託法第163条)。

新しい受託者が就任すると、信託法第75条第1項により、前受託者が持っていた信託に関する権利義務を承継したものとみなされます。

それでも銀行との取引は別問題です。
法律上権利義務を承継したからといって、新受託者が当然に銀行口座を利用できるわけではありません。
実際には、金融機関ごとの審査や手続が必要になります。
そのため、以下のような実務上の問題が生じる可能性もあります。

  • 新受託者名義の信託口口座が開設できない
  • 信託財産を動かせない

この点も踏まえると、信託契約を設計する段階から、金融機関の運用方針を確認しておくことが重要です。

5. 受託者の払戻権限に過度な制限を設けることは慎重に考える

信託契約では、受託者の払戻権限にさまざまな条件を付けることも考えられます。
しかし、金融機関の立場からすると、払戻しのたびに、以下の点をを確認することは大きな負担になります。

  • 権限があるか
  • 条件を満たしているか

そのため、実務では、受託者の払戻権限に過度な制限を設けることは、口座開設や運用の面で望ましくない場合があります。

6. 信託契約を作る前に銀行へ相談することが重要

信託口口座をスムーズに開設するためには、信託契約書を完成させる前から金融機関と相談することが非常に重要です。
実務では、信託契約書の案を公正証書にする前に、口座を開設予定の金融機関へ確認することが勧められています。
なぜなら、

  • 後継受託者の定め
  • 信託監督人の有無
  • 払戻権限の内容

など、契約書の内容によっては口座開設が認められない場合があるためです。

信託口口座は、単に信託契約を作成すれば開設できるものではありません。
金融機関は、公正証書の有無や後継受託者の定め、信託監督人の設置など、さまざまな点を確認したうえで口座開設を判断します。
そのため、信託契約書を作成する段階から金融機関と十分にコミュニケーションを取り、事前に契約内容を確認してもらうことが、スムーズな民事信託の実現につながります。