近年、相続対策や認知症対策として「民事信託(家族信託)」が注目されています。
もっとも、現在の信託法は、もともと民事信託だけを想定して作られた法律ではありません。
じつは、現行の信託法は、主として信託銀行などが利用する「商事信託」を念頭に整備されたという背景があります。
そのため、民事信託を実際に活用する場面では、制度趣旨を踏まえた慎重な設計や契約書作成が重要になります。
1. 現行信託法は平成18年に全面改正
現行の信託法は、平成18年12月15日公布、平成19年9月30日施行というスケジュールで制定・施行されました。
それ以前の信託制度は、主として金融機関による資産運用を前提としたものであり、一般家庭で利用される「民事信託」はほとんど普及していませんでした。
当時の実務では、信託銀行が受託者となる商事信託が中心であり、家族間で財産管理を行う現在の民事信託のような活用は、まだ一般的ではなかったのです。
2. 平成18年改正の主なポイント
実務上、平成18年改正の重要な特徴としては、次の点が挙げられます。
2_1. 受託者の義務の任意法規化
従来よりも柔軟な契約設計が可能となり、当事者のニーズに応じた信託条項を定めやすくなりました。
2_2. 受益者の権利強化
受益者による監督機能や情報取得権限が整備され、受益者保護が強化されました。
2_3. 新しい信託類型の導入
以下のような、新しい信託活用を可能にする制度が導入されました。
・受益者指定権、変更権(89条)
・遺言代用信託の特例 (90条)
・後継ぎ遺贈型受益者連続信託の特例(91条)
しかし、現在の信託法は、あくまで商事信託を含めた「信託制度全体」の基本法です。
そのため、家族間で利用する民事信託では、そのままでは実情に合わない場面も少なくありません。
実際の民事信託では、以下のような個別事情に応じた契約設計が重要になります。
- 受託者の権限をどこまで認めるか
- 家族間トラブルをどう防ぐか
- 受益者保護をどう設計するか
- 信託終了後の財産帰属をどう定めるか
3. 民事信託は「契約設計」が重要
民事信託は、認知症対策や事業承継、相続対策など、幅広い場面で活用できる制度です。
一方で、信託法自体は必ずしも家族間利用だけを想定したものではないため、実務では契約内容の設計が非常に重要になります。
民事信託を検討する際には、信託法の制度趣旨を踏まえたうえで、個別事情に応じた適切な設計を行うことが大切です。