【福岡の民事信託】福岡の弁護士が、受託者の義務をやさしく解説

受託者は信託財産を自分のために使うことはできません(信託法8条、以下の文章では「信託法」を省略します)。
民事信託(家族信託)では、受託者は信託財産を管理・運用する立場ですが、原則として、その財産から自分が利益を受けることは認められていません。
これは、受託者が「預かった財産を本人の利益のために適切に管理する」という役割を担っているためです。
もっとも、受託者と受益者が同じ人になった場合は、受益者として利益を享受することはあります。ただし、受託者と受益者が完全に同一の状態が一定期間継続すると、法律上、信託が終了します(163条1号)。
また、受益者が複数いて、そのうちの一人が受託者である(共同受益者)となることは可能です。

  1. 受託者にはさまざまな法律上の義務があります
  2. 利益相反となる行為は禁止されています
  3. 自分の利益を優先することもできません(32条)
  4. 複数の受益者がいる場合は公平に対応しなければなりません(32条)
  5. 信託財産は自分の財産と分けて管理します(34条)
  6. 第三者に任せる場合にも責任があります(35条)
  7. 受益者への報告義務があります(36条)
  8. 帳簿や財産の記録を作成・保存する義務があります(37条)
  9. 民事信託では「信頼できる受託者選び」が重要です

1. 受託者にはさまざまな法律上の義務があります

受託者は、信託財産を預かる立場として、高い責任を負います。主な義務には次のようなものがあります。
信託の目的に従って財産を管理する義務(29条1項)
受託者は、信託契約で定められた目的に従い、受益者のために信託財産を管理・運用しなければなりません。
善良な管理者として注意を払う義務(善管注意義務)(29条2項)
受託者には、自分の財産以上に慎重な姿勢で信託財産を管理することが求められます。
受益者の利益を最優先に行動する義務(忠実義務)(30条)
受託者は、自分の利益ではなく、受益者の利益を第一に考えて行動しなければなりません。

2. 利益相反となる行為は禁止されています

受託者は、自分の利益と受益者の利益が対立するような取引を原則として行うことはできません。
例えば、次のようなケースです。

  • 信託財産を受託者自身が購入する(31条1項1号)
  • 複数の信託を管理している場合に、一方の信託財産をもう一方の信託へ移す(同項2号)
  • 自分が、相手方の代理人となって信託財産を売買する(同項3号)
  • 自分の借入れの担保として信託財産を利用する(同項4号)

このような取引は、受益者に不利益が生じるおそれがあるため、法律上厳しく制限されています。

3. 自分の利益を優先することもできません(32条)

受託者は、自分の利益を信託より優先してはなりません。
例えば、以下のような行為は、受託者としての義務に反する可能性があります。

  • 受託者自身にも貸付金があり、信託財産にも同じ相手への貸付金がある場合に、自分の債権だけを先に回収する
  • 信託財産の賃貸物件と、自分所有の賃貸物件の両方に空室がある場合に、入居希望者に、自分の物件だけを優先して紹介する

4. 複数の受益者がいる場合は公平に対応しなければなりません(32条)

受益者が複数いる場合、受託者はすべての受益者を公平に扱う必要があります。
また、最初の受益者だけでなく、将来受益者となる方(二次受益者)がいる場合には、その方の利益にも配慮しながら信託を管理することが求められます。

5. 信託財産は自分の財産と分けて管理します(34条)

信託財産は、受託者個人の財産とは明確に区別して管理しなければなりません。
不動産であれば信託登記を行い、預貯金などは信託口口座を作って適切に区別して管理することで「信託財産」であることを明確にします。

6. 第三者に任せる場合にも責任があります(35条)

旧信託法では、受託者に自己執行義務が課せられていましたが、改正により、委託が可能となりました。
しかし、専門家や管理会社などへ業務を委託する場合でも、受託者には「適切な相手を選ぶこと(1号)」「委託後も必要な監督を行うこと(2号)」が求められます。
「任せたから責任がなくなる」というわけではありません。

7. 受益者への報告義務があります(36条)

受託者は、信託財産がどのように管理・運用されているかについて、受益者へ適切に報告する義務があります。
受益者が安心して信託制度を利用できるよう、透明性の高い運営が求められています。

8. 帳簿や財産の記録を作成・保存する義務があります(37条)

受託者は、信託財産の管理状況を記録した帳簿や書類を作成したうえ、受益者に報告し、一定期間保存しなければなりません。
信託の内容によって作成する書類は異なりますが、一般的には次のような資料を適切に管理します。

  • 帳簿
  • 財産の一覧(財産目録)
  • 信託財産の収支状況
  • 財産の増減を示す資料
  • 契約書や領収書などの関係書類

これらの書類は一定期間保存することが法律で求められており、必要に応じて受益者へ開示できるようにしておく必要があります。

9. 民事信託では「信頼できる受託者選び」が重要です

民事信託では、受託者に大きな権限が与えられる一方で、それに見合う多くの法律上の義務も課されています。
そのため、受託者には誠実さや責任感が求められるだけでなく、信託契約の内容を適切に設計することも重要です。

朝雲法律事務所では、ご家族の状況や将来のご希望を丁寧にお伺いし、安心して利用できる民事信託の設計をサポートしています。