【民事信託】弁護士解説|委託者の権利とは?信託法で認められる権利や相続・移転

民事信託では、委託者は信託財産を信託する当事者ですが、信託を設定した後も一定の権利を持ち続けます。
もっとも、信託法では委託者の権利が一つの条文にまとめて列挙されているわけではありません。そのため、具体的にどのような権利があるのかは、各条文を確認する必要があります。

  1. 信託法で認められる委託者の権利
    1-1. 受託者に報告を求める権利(信託法第36条)
    1-2. 受託者を解任する権利(信託法第58条)
    1-3. 新しい受託者を選任する権利(信託法第62条第1項)
    1-4. 信託内容を変更する権利(信託法第149条第1項)
    1-5. 信託を終了させる権利(信託法第164条第1項)
  2. 信託契約で委託者に付与できる権利
    2-1. 強制執行などに対する異議権(第145条第2項第1号・信託法第23条)
    2-2. 受託者の権限外行為の取消権(第145条第2項第2号・信託法第27条)
    2-3. 利益相反行為の取消権(第145条第2項第3号・信託法第31条)
    2-4 帳簿等の閲覧請求権(第145条第2項第5号・信託法第38条)
  3. 委託者の権利は第三者へ移転できる
  4. 委託者の地位は相続されるのか
    4-1. 遺言信託の場合
    4-2. 契約による信託の場合
  5. 委託者の権利を理解することが民事信託では重要

1. 信託法で認められる委託者の権利

ここでは、信託法で認められている委託者の権利のうち代表的なものを挙げます(ここで挙げたものが委託者の権利全てというわけではありません)。

1_1. 受託者に報告を求める権利(信託法第36条)

委託者は、受託者に対して次の事項について報告を求めることができます。
信託財産が適切に管理・運用されているかを確認するための重要な権利です。

  • 信託事務の処理状況
  • 信託財産の状況
  • 信託財産責任負担債務の状況

1_2. 受託者を解任する権利(信託法第58条)

委託者は、受益者と合意することで受託者を解任することができます。
もっとも、一方的に解任できるわけではなく、受益者との合意が必要です。

1_3. 新しい受託者を選任する権利(信託法第62条第1項)

受託者が死亡や辞任などによって任務を終了した場合、信託契約に別段の定めがなければ、委託者と受益者が共同で新しい受託者を選任できます。

1_4. 信託内容を変更する権利(信託法第149条第1項)

委託者は「受託者」「受益者」との合意があれば、信託内容を変更できます。

1_5. 信託を終了させる権利(信託法第164条第1項)

委託者は、受益者との合意によって信託を終了させることができます。

2. 信託契約で委託者に付与できる権利

信託法第145条第2項では、信託契約(信託行為)によって委託者に追加の権利を与えることができるとされています。
代表的なものは次のとおりです(ここで挙げたものが委託者の権利全てというわけではありません)。

2_1. 強制執行などに対する異議権(第145条第2項第1号・信託法第23条)

信託法第23条では、原則として信託財産に対する強制執行や滞納処分は禁止されています(信託財産責任負担債務に係る債権を除きます)。

これに反して、次の場合には、信託契約で定めることにより、委託者が異議を申し立てる権利を持つことができます。

  • 強制執行が行われた場合(第23条第5項)
  • 滞納処分が行われた場合(第23条第6項)

2_2. 受託者の権限外行為の取消権(第145条第2項第2号・信託法第27条)

受託者が権限を超える行為をした場合、その行為を取り消す権利を委託者に与えることができます。

2_3. 利益相反行為の取消権(第145条第2項第3号・信託法第31条)

受託者が利益相反となる行為を行った場合、その行為を取り消す権利を委託者に付与できます。

2_4. 帳簿等の閲覧請求権(第145条第2項第5号・信託法第38条)

信託契約で定めることにより、委託者は帳簿や関係書類の閲覧を請求することができます。
信託財産の管理状況をより詳しく確認したい場合に重要な権利です。

3. 委託者の権利は第三者へ移転できる

信託法第146条第1項では、委託者の権利を第三者へ移転できることが定められています。
移転するには、次のいずれかの方法が必要です。

  • 受託者と受益者の同意を得ること
  • 信託契約で定められた方法に従うこと

つまり、委託者の権利は自由に移転できるわけではなく、一定の手続を経る必要があります。

4. 委託者の地位は相続されるのか

委託者の地位が相続されるかどうかは、信託の設定方法によって異なります。

4_1. 遺言信託の場合

信託法第147条では、遺言による信託では委託者の地位は相続されないと定められています。

4_2. 契約による信託の場合

これに対し、第147条の反対解釈から、契約による信託では委託者の地位は相続人に承継されると考えられています。
そのため、生前に信託契約を締結して民事信託を設定した場合には、原則として委託者の地位は相続人へ引き継がれることになります。

5. 委託者の権利を理解することが民事信託では重要

委託者は、信託財産を託した後も、報告請求や受託者の解任、信託内容の変更など、信託法によってさまざまな権利が認められています。また、信託契約によって追加の権利を設けることも可能です。
さらに、契約による民事信託では委託者の地位が相続されることや、一定の条件のもとで第三者へ権利を移転できることも、信託設計を考えるうえで重要なポイントといえるでしょう。