遺言書

遺言書

1. 遺言書を作成する方が増えている背景 少子高齢化が進む現代では、「長生きすること」と「子どもが少ないこと」が当たり前の時代になりました。その中で、「自分が亡くなった後、家族や周囲に迷惑をかけたくない」「財産のことで揉めてほしくない」と考える方が増えています。こうした意識の高まりから、「終活」という考え方が広く定着しました。 終活には、身の回りの整理や医療・介護の意思表示など、さまざまな内容が含まれますが、その中でも特に重要なのが、財産をどのように引き継がせるかという点です。 「子どもたちが将来争わないようにしておきたい」「配偶者が安心して暮らせるようにしたい」「子どもがいないため、甥や姪、お世話になった人に財産を残したい」など、遺言に関する悩みは人それぞれです。 裁判所の司法統計を見ても、遺言書に関する手続は年々増加しています。自筆証書遺言の検認申立件数は、1995年には全国で約8,000件でしたが、2019年には約1万8,000件にまで増えています。また、遺言執行者の選任件数も同期間で1235件から2531件に約2倍に増加しており、遺言書を残す人が確実に増えていることが分かります。 このような傾向からも、遺言書は特別な人だけのものではなく、誰にとっても身近な備えになってきているといえるでしょう。 2. 遺言書とは何か 遺言書とは、亡くなった後に『自分の財産を「誰に」「どの財産を」「どのような割合で」引き継がせるか』について、法的な効力をもって意思表示をする文書です。 財産を引き継ぐ相手は、配偶者や子どもなどの法定相続人に限られません。相続人以外の方や団体に財産を渡すこと(遺贈)も、遺言書があれば可能です。 法律では、相続人の範囲や法定相続分が細かく定められていますが、遺言書がある場合には、原則として遺言の内容が優先されます。そのため、「自宅は配偶者に」「預貯金は子どもたちに」「事業用資産は事業を継ぐ子に」など、具体的かつ柔軟な財産分配が可能になります。 もっとも、相続人には「遺留分」と呼ばれる最低限保障された取り分があります。遺言によって遺留分を侵害された相続人は、金銭での請求(遺留分侵害額請求)を行うことができるため、遺言内容を決める際には慎重な配慮が必要です。 3. 遺言書を作成する主なメリット (1)相続トラブルの予防につながる 遺産分割の多くは、「誰がどれだけもらうか」が曖昧なまま話し合いを始めることで紛争に発展します。遺言書で遺産の分け方を明確にしておくことで、相続人同士の無用な対立を防げる可能性が高まります。 (2)相続手続がスムーズになる 遺言書があることで、相続人は「何を」「誰が」引き継ぐのかをすぐに把握できます。特に、複数の金融機関や証券会社を利用している場合、遺言書がないと、どこにどれくらいの遺産があるかの調査に多くの時間と手間がかかります。 (3)遺言執行者を指定できる 遺言執行者とは、遺言の内容を実現する役割を担う人です。遺言執行者を指定しておけば、預貯金の解約、不動産の名義変更、有価証券の名義移転などを一括して進めることができます。弁護士などの専門家を指定することで、相続人の負担を大きく減らすことができます。 (4)公平ではなく「納得感」のある遺産の分け方ができる 法定相続分は形式的な平等を重視しますが、実際の家族関係や貢献度までは反映されません。また、事業を継続するには、それを引き継ぐ人に事業資産や自社の株式などを引き継がせることが必須です。事業承継や介護への貢献などを考慮した分配を行える点も、遺言書の大きなメリットです。 (5)相続人がいない場合の備えになる 相続人がいない場合、遺産は最終的に国に帰属します。ただし、特別縁故者が財産を引引き継げるように家庭裁判所に申し立てる方法は存在します。遺言書があれば、家庭裁判所への申し立て制度を使うことなく、生前に縁のあった方や団体へ財産を引き継がせることができます。 (6)想いを言葉として残せる 特に公正証書遺言では、財産の分け方とともに、感謝の気持ちや分配理由を記入することができます。これにより、相続人の理解を得やすくなり、感情的な対立を和らげる効果も期待できます。 4. 遺言書は必ず法律に従って作成する必要があります 遺言書は、法律で定められた方式を守らなければ無効になります。 「生前に口頭で伝えていた」「メモに残していた」といったものは、原則として遺言としての効力を持ちません。 また、形式を少し誤っただけで無効になるケースも少なくありません。せっかく遺言を残しても、無効になってしまえば意味がありません。そのため、遺言書の作成にあたっては、専門家のチェックを受けることが重要です。 5. 遺言書の主な種類と特徴 (1)自筆証書遺言 ご本人が全文を自筆で書く遺言です。 平成30年(2018年)の法改正で、財産目録は自筆でもよくなりましたが、両面に署名押印しないといけないなど、ややこしいルールがあります。 費用を抑えられる一方で、形式不備による無効や、後日の争いのリスクが比較的高い点には注意が必要です。 現在は、法務局での保管制度を利用することで、紛失や改ざんのリスクを軽減できます。 (2)公正証書遺言 公証人が作成する遺言で、もっとも安全性の高い方式です。形式不備の心配がなく、原本も公証役場で保管されます。費用はかかりますが、確実性を重視する方に適しています。 6. 遺言書作成時の重要な注意点 遺言書作成にあたっては、遺留分への配慮、生前贈与との関係、相続税への影響など、検討すべき点が多くあります。内容次第では、かえってトラブルの原因になることもあります。 そのため、ご自身の家族構成や財産状況に応じて、専門家と相談しながら遺言内容を検討することが、将来の安心につながります。