
本サイトの別のページで、後継ぎ遺贈は、裁判例、学説において、有効なのか無効なのかについては、はっきり決まっておらず、無効になる恐れがあるのでやめておいたほうが良いという記事を書いております。
後継ぎ遺贈とは
まず、遺贈とは、遺産を特定の人に与えるという遺言書を書くことです。
後継ぎ遺贈とは、受遺者(遺産をもらう人)を順次2名以上決めておき、遺言した人が亡くなったときに、第1順位の受遺者が遺産をもらい、第1順位の人が死亡したら第2順位の人が遺産をもらう(第1順位の人の死亡以外を第2順位の人が遺産をもらう条件としてもいいです。)といった遺言書を書くことです。
例えば、夫が遺言を書き、まず自分が亡くなったら妻に居住不動産(あるいは事業に必要な不動産)を与え、妻が死亡した場合、その子のうち、家業をついてくれる子供に居住不動産(あるいは事業に必要な不動産)を与えるといった遺言書を書くことです。
遺言書において、夫が死亡した場合、完全に妻に不動産を与えてしまう内容にすると、不動産の所有者は妻となり、妻が、その不動産を誰に上げるかは妻が決めていいことです。
したがって、後継ぎ遺贈は、夫が、妻に完全に不動産の所有権を渡すものではなく
① 第2次受遺者(子供)に財産上の利益を移転すべき負担を第1次受遺者(妻)に負わせた負担付遺贈である
② 第1次受遺者(妻)の死亡時に所有権を持っている場合に第2次受遺者(子供)へ移転する遺贈である。
③ 第1次受遺者(妻)に使用収益権を付与し、第1次受遺者(妻)死亡時を不確定期限とした第2受遺者(子供)に対する遺贈である
などといった理論づけをしないといけません。
後継ぎ遺贈の問題
遺言で相続人等に遺産を与えるのに、負担付きや期限付きにしていいのかという問題ですが、民法自体に負担付遺贈の条文(1002条、1003条)がありますので、問題はありません。
後継ぎ遺贈ができるかどうかは、理論上遺贈に負担や期限をつけていいかという問題ではなく、そういった遺言を認めるのは適切か、という問題です。それを認めていいという説の理由となっているのは、実質的にそういうニーズが世間にあるといったことです。
例えば、家業をしている人が、自分が亡くなった後、妻に不動産に住まわせ、家業は複数の子供のうちの1人に継がせたいので、妻の死亡後は、その家業を継ぐ子供に不動産を与えたいと思った時、後継ぎ遺贈が認められれば非常に都合がいいわけです。
逆に後継ぎ遺贈を認めないとしている説の根拠は、後継ぎ遺贈を認めると、不都合なことが起きるというものです。
例えば、後継ぎ遺贈をして、妻が死亡する前に、妻が借金して不動産を差し押さえられた場合、差し押さえをした債権者と第2順位の受遺者である子供はどちらが優先するのか、といった難しい問題が生じる、あるいは、妻が死亡するまでの間の不動産の所有権は誰に帰属するのがはっきりしない、といった問題です。
いずれにしろ、後継ぎ遺贈の問題は、現在の相続法では、世間の遺産分割のニーズに完全に対応しきれていないことが背景にあります。
そういった背景があるので、現在の相続法の下でも後継ぎ遺贈を認めるべきだという説があったり、平成18年の信託法の改正で、実質的に後継ぎ遺贈と同じ効果をもたらす後継ぎ遺贈型受益者連続信託(信託法91条)を作ったり、配偶者居住権といったものを新設したりしているのです。
後継ぎ遺贈の判例
後継ぎ遺贈の判例としては最高裁の昭和58年3月18日判決があります。
控訴審の福岡高裁昭和55年6月26日判決は、後継ぎ遺贈を単に妻への単純遺贈をしたもので、妻死亡後に夫の兄弟等に不動産を分けるといった遺言は単なる希望にすぎない、と後継ぎ遺贈を否定する判決をしました。最高裁はこの福岡高裁の判決を否定しているので、最高裁は後継ぎ遺贈を認めているようにも思われます。
しかし、一般的にこの判決は後継ぎ遺贈を明確に認めたものとは評価されていません。文献等は、ほとんどが、後継ぎ遺贈が有効か無効かの問題には争いがあり、学説でも裁判例でも決着がついていない、といった書き方をしています。