Aさんは、先ごろ叔母Dさんを亡くした。Dさんは、Aさんの父の妹にあたる。Aさんの父はすでに他界し、叔母Dさんは生涯独身であったため、老後はAさんがお世話をしていた。Dさんの死後、遺品の整理をしていたところ、多額の預金通帳や証券がみつかった。
父にはもう一人の妹Eさんがおり、戦後結婚して、一旗揚げようとS国に移住した。父の存命中は手紙のやり取りなどしていたようだが、今は音信不通になっている。叔母Dさんの財産を相続したいが、どうすればよいか困っている。
相続人の一部が海外に住んでいることがあります。
現在では国際結婚も珍しくなくなり、結婚して国外に住んでいる方も増えました。国外にいる、のであれば、連絡も取れるでしょうし、帰国してもらったり、手紙のやり取りをするなどして、話し合いに応じてもらい、話がまとまれば、預金や不動産の登記に必要な書類に印鑑証明書を押してもらうことも可能でしょう。
しかし、Aさんのケースのように、戦後間もないころ、海外に移住し、そのまま永住されている場合は、移住した方の年齢も相当高いため、そのまま連絡がつかなくなっていることも少なくありません。
Aさんの場合は、まずは、遺産分割の話し合いをするために、もう一人の叔母Eさんの居場所を探さないといけません。
その方に近い関係の人に聞いてわかることもありますし、現地の大使館に在留届を出していれば、その大使館に照会して住所が判明することもあります。
しかし、住所がわかったとしても、当事者間の話し合いで遺産分割協議を進めるのは、なかなか難しいといえます。叔母Eさんの場合も、数年前に外国にいったというわけではなく、何十年もS国にいて、突然、会ったことすらない姪のAさんと、手紙だけでだけで話し合いをするというのは、お互いに抵抗がありますし、このためだけに帰国してもらうというのもあまり現実的ではありません。
では、どうするかというと、遺産分割調停を利用するという方法があります。
この場合では、叔母Eさんに、遺産がいるか、もういらないと思っているか意思確認をして、今更いらない、と思っているようであれば、相続分の譲渡をしてもらい、遺産分割調停から離脱してもらうこともできます。そうしてもらうと、遺産分割を話し合う相手の数が少なくなり、話し合いがより簡易になってきます。
相続分の譲渡、遺産分割協議からの離脱は、裁判所がその方が住んでいる外国の住所地に、その方の意思を確認する通知を送り、「相続分譲渡証書」などに、署名と捺印をしてもらうことになります。
日本国内であれば、これに印鑑証明書を添付して、本人確認となるところですが、海外にはこの印鑑証明の制度がありませんので、本人の意思が間違いなく確認できたか署名だけでは証明になりません。
そこで、海外在住の相続人の場合は、在外日本大使館で本人の意思であることの証明をしてもらう必要があります。具体的には、このケースでは叔母Eさんが、S国の日本大使館に出向き、相続分譲渡証書にサイン、拇印の押捺をすることで、大使館から「以下のものは、本職の面前で添付書類に書面(拇印の押捺)したことを証明します。 在S国日本国大使館 特命全権大使 ●山 ●次郎」という内容の証明書をもらい、この証明書と相続分譲渡証書を綴じ、大使館の割り印が押されたものを、日本の家庭裁判所に送ってもらう、という方法をとります。
また、調停ではなく、相続人通しの話し合いだけで、遺産を分ける場合でも、預貯金の解約や不動産の登記をする際、遺産分割協議書を外国に送り、上記と同じ要領で、大使館にいって、遺産分割協議書に署名と拇印の押捺をしてもらい、「面前で、署名、拇印の押捺をしました。」という大使館の証明をもらい、遺産分割協議書と一緒に綴じて大使館の割り印を押してもらい、それを郵送してもらう、という方法で、預金の解約、不動産の登記ができるようになります。