頑固で取り付く島がない兄弟

A子さんの父が、最近亡くなられた。残された財産は、銀行の預貯金と、自宅。母は、早くに他界されているので、父の遺産の相続人は、A子さんと兄B男さん、妹C子さんの3人となる。

A子さんとC子さんは仲が良かったが、B男さんは父との折り合いが悪く、A子さんたちとの付き合いもほとんどなかった。

B男さんは、父の葬儀にも参列せず、今後のことを話し合いたいと電話したが、「話すことはない」と全く取り付く島もなかった。A子さんもC子さんも結婚して他県に住んでおり、もともと父が亡くなったら実家は売却して、預貯金も兄弟3人で平等に分ければいいと簡単に考えていた。しかし、その後も、B男さんとの連絡がつかないため、預金の解約も、自宅の売却もできず、途方に暮れている。

額の多寡にかかわらず、遺産の分け方の話し合いにおいては、お互いの言い分が違い、争いになるケースもありますが、このB男さんのように、そもそも、話し合いに応じようとしない相続人がいるケースもあります。

他の相続人との間では話がまとまっているのに、このような態度をとる相続人が一人いるだけで、遺産の分割はできません。つまり、「遺産分割は、相続人全員の同意がないと進められない」ということです。

A子さんのケースを少し専門的に説明しましょう。

A子さんは、裁判所を通さないで、つまり相続人だけで話し合い、法定相続分(法律で決まった相続分で、相続人の間で話がつけば、法律通りにしなくてよいが、話がつかない場合は、基本的には、法律通りに分けることになる)をそれぞれが相続するという内容で、B男さんに提案しました。ところが、B男さんがうんともすんとも言ってこないので、正直なところ、B男さんが遺産をもっと欲しがっているのか、遺産はいらないと思っているのか、さっぱり解らない状況になっています。こうなってくると、遺産を分ける手続きは、ちっとも進みません。

例えば、不動産を分けるために登記する、あるいは売却するのにもB男さんのハンコがないとできませんし、預貯金を分けようにも、B男さんのハンコがないと、銀行は解約等に応じてくれないからです。

このように、相続人だけでの話合いでは、どうにもならない場合は、裁判所所の遺産分割調停を利用し、解決を目指すことになります。

しかし、裁判所の遺産分割調停を利用することでも解決できない場合、例えば、A子さんのケースでいうと、B男さんが調停にも出席しない場合は、B男さんの意向がわからない、つまり「全員がこの内容で納得しました」ということになりませんので、調停は不成立になります。

このような場合は、裁判所により” 調停に代わる審判(家事事件手続法284条)”という手続きをしてくれる時があります。この審判は、相続人全員に対して平等にしないといけないので、A子さんのケースでは、「B男には、B男の法定相続分をきっちり分ける」という内容の決定になります。

“調停に代わる審判”は、裁判所から相続人全員に送達され、2週間以内に誰からも異議の申し立てがなければ、決定が確定することになります。

ところが、B男さんのように、頑なに話し合いを拒否する相続人が、故意に決定を確定させないように、決定を受け取らない場合があります。

このような時には、つまりB男さんのように住所が判明している場合で、郵便を受け取ってもらえない時は、「書留郵便等に付する送達」(民事訴訟法107条、家事事件手続法93条)という方法があります。

手続きには、まず、B男さんがその住所に住んでいることが間違いないということをきちんと調査することが必要です。調査は、依頼者本人や弁護士、または調査会社に依頼することもありますが、要は、B男さんがそこに住んでいることの証拠、例えば、表札がかかっている/電気やガスメーターが動いている/郵便物や新聞などが配達され、それを受け取っている形跡がある/隣人から「B男さんがそこに住んでいる」という証言をもらう、といった情報を集めればよいのです。それらの証拠を裁判所に提出すると、裁判所から、その住所に前述の”審判に代わる決定”が郵送されることで、仮にB男さんが受け取らなくても、受け取ったことにしてくれるのです。

その後、異議の申し立てがなく、2週間が経過すれば、決定は確定します。

決定書があれば、B男さんのハンコがなくても、不動産の登記や預貯金の解約が可能になりますので、ようやく、遺産分割の手続きが進められることになります。

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