祭祀承継者

Aさん夫婦の最近の悩みは、自分たちが亡くなった後のお墓のこと。Aさんには、東京で暮らす一人息子がいるが、この先おそらく地元に戻って暮らすことはないだろうと思っている。一方、Aさん夫婦の近くには、Aさんの姪が住んでおり、この姪夫婦とは家族ぐるみで旅行にいくなど、日ごろから何かと世話を焼いてくれ、とても仲が良い。姪の婿が次男ということもあり、姪たちの墓もここに一緒に建てて、お墓を守って欲しいと伝えたところ、そんなことはしなくても、ちゃんとおじさんたちのお墓の面倒はみると言ってくれている。しかし、Aさん夫婦としては、姪夫婦に正式に墓地を譲り、先祖の供養を任せたいと思っている。長男には言いにくいが、自分たちが亡くなったあとで、お墓が荒れていくのも先祖に申し訳ないし、残った人に迷惑をかけるようなこともしたくないので、なにか方法はないかと思っている。

人が亡くなると、「遺産をどうするか」という問題と並んで、遺骨、仏壇、お墓、先祖代々の供養をだれが引き継ぐか、といった問題も出てきます。

ひと昔まえなら、家族はみな同じ宗教を信仰しているケースが多かったのでしょうが、多様化する現代社会においては、夫婦や親子で別の宗教を信仰していたり、もちろん、信仰がないというケースもあるでしょう。そうなると、どこの宗教・宗派に供養してもらうか、そもそも供養するのかという点から争いになることもあります。

また、先祖代々のお墓を守っていた方が亡くなり、子供はもちろん、甥や姪もいないとなった場合は、誰がそのお墓を継承するかは、とても難しい問題になります。

さらに、相続人間で、宗教観に微妙な差があり(例えば、信仰心が強く、手厚く供養したい人もいれば、そうでもない人もいるでしょう)、それが争いの元になるケースも考えられます。

民法において、遺骨、仏壇、お墓、先祖代々の供養などを引き継ぐ人を「祭祀継承者」といい、祭祀の継承に関しては、897条で下記のように定められています。

「系譜、祭具及び墳墓の所有権は、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する」とは大雑把な規定に思われますが、ポイントは、同条が、「(相続の一般規程である)前条(896条)の規定にかかわらず」となっている点です。

『誰が祭祀の承継者になるか』は、一般的な遺産の相続とは切り離して考える、つまり、相続人が法定相続分に従って機械的に遺産分割するわけではなく、”慣習”に従えば、たとえ相続人でない他の親族であっても、祭祀承継者にふさわしければ、その人が継いでも構わないということです。

しかし、“慣習”で、誰の目から見ても祭祀継承者がはっきりしていれば、争いにはならないでしょうが、はっきりしていない場合、例えばAさん夫婦の場合でいえば、長男が祭祀継承者であれば、争いにはならないでしょうが、姪の場合、対立することにもなりかねません。

こういった場合、前述したように、法律(民法897条)に書いてある基準には具体性がなく、判例でも「被相続人(亡くなった方)の身分関係、生活関係、生活感情の緊密度、承継者の際し主宰の意志・能力、利害関係人の意見等諸般の事情を総合的に判断する」(大阪高裁昭和59年10月15日)と具体的な基準とするには抽象的すぎて、判断に迷うことになります。

そこで、民法897条には、被相続人(亡くなった方)の指定があれば、その人が承継することになっています。

よって、争いになりそうなことが事前にわかっていれば、誰が祭祀の継承者となるか、自分の遺骨はどこに埋葬して欲しいか、どこの宗派(お寺)で供養して欲しいかなどを、遺言書に書くなどして、生前に決めておくのが一番です。また、生前に、お墓の永代使用権の名義を、祭祀を継承して欲しい人に、あらかじめ書き換えておくという方法もあります。

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