配偶者居住権の終了

相談者Wさんは、配偶者居住権を得て、亡き夫Hさんの遺産である建物に住んでいる。年を重ね、一人暮らしも不安なことから、老人ホームに入所することとなり、建物を出ることになったので、配偶者居住権が不要となった。所有者(建物を引き継いだ相続人)に配偶者居住権を買い取ってもらうことは可能だろうか?

【解説】
Wさんは、配偶者居住権を取得するために、夫Hさんの他の遺産の取り分を減らされています。つまり、配偶者居住権を有償で取得しています。

配偶者居住権は、配偶者が死亡するまで又は、遺産分割協議、遺言等で期間が決まっている場合は期間満了まで続くことが前提とされています(1030条)。従って、遺産分割の時も、配偶者居住権がいつまで続くかを前提に、その価値を計算し(当然期間が長ければ長いほど配偶者居住権の金額は高い)、配偶者は、その金額に相当する分を、遺産の取り分から差し引かれているのです。

よって、Wさんの場合のように、もともと想定していた期間より早く配偶者居住権を終了させて建物を出る場合や、Wさんが、一般的な平均寿命より早く亡くなった場合、所有者(建物を引き継いだ相続人)は、予定より早く建物の返還を受けるので、得をすることになります。逆にWさんは、予定より早く建物を出るので損をすることになります。

このような場合は、Wさんと所有者(建物を引き継いだ相続人)が話し合い、配偶者居住権の残存期間の価値を計算して、所有者(建物を引き継いだ相続人)からWさんへいくらかの金額を支払い、清算さんをしてもらうということが考えられます。

もっとも、民法には、配偶者から所有者(建物を引き継いだ相続人)に対し、配偶者居住権を買い取るよう請求する権利までは認められていません。

Wさんの場合も、自己の都合で、予定より早く建物から出ていくのですから、所有者(建物を引き継いだ相続人)がこれに対し、金銭で清算するかは、Mさんと所有者(建物を引き継いだ相続人)が話し合い、合意が成立した場合にのみ認められる話で、所有者(建物を引き継いだ相続人)に金銭での清算を強制することはできません。

また、Wさんが、配偶者居住権の残存期間をお金に変える方法としては、所有者(建物を引き継いだ相続人)に許可をもらったうえで、建物を第三者に賃貸し、賃料を得る、という方法が考えられます。

Wさんの場合は、Wさんの都合で、配偶者居住権を終了させようとしていますが、一般的に配偶者居住権は、下記の場合に終了となります。

  1. 配偶者が死亡した場合(1030条本文)
  2. 遺言書、遺産分割協議、調停、又は家庭裁判所の審判で配偶者居住権の期間が定めてありその期間が来た場合(1030条但書)。
  3. 配偶者が、所有者(建物を引き継いだ相続人)に無断で建物増改築、配偶者居住権を他人へ貸し出し、建物の用法違反などをして、所有者(建物を引き継いだ相続人)が配偶者居住権を消滅させた場合

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