「配偶者居住権」が認められる場合、認められない場合

相談者Wさんからのお手紙。長年連れ添った夫が、先日亡くなった。夫といっても、正式な婚姻関係ではない。夫は前妻と離婚しており、私も前夫と死別したため、一緒に夫婦として生活していたが、おたがいの子どもたちへの配慮から正式な婚姻届けは提出しないままだった。

自宅は、夫所有であるため、夫の子供たちから、退去するよう言われている。「配偶者居住権」というものが出来たと聞いたが、この権利は認められますか?

【解説】
結論としては、残念ですが、内縁の妻であるWさんには「配偶者居住権」は認められません。

高齢化社会となり、夫婦の一方が先に亡くなった後も,残された配偶者が,住み慣れた住居で生活を続けることが出来るよう、遺言や遺産分割の選択肢として、配偶者が,無償で,住み慣れた住居に居住する権利=配偶者居住権が創設されたわけですが、では、どのような場合に「配偶者居住権」が認められるのかを具体的にご説明します。

Q1.夫Aと妻Bが内縁関係だった場合、Bの配偶者居住権は認められますか。

A
残念ながら認められません。内縁の妻にはもともと相続権が認められていません。もちろん、遺言書で、内縁の妻に財産を遺贈することは可能です。しかし、配偶者居住権の遺贈はできないことになっています。

Q2.夫Aが建物を借りて、Aと妻Bがその建物に住んでいた場合、配偶者居住権は認められますか。

A
いいえ。配偶者居住権は、亡くなった配偶者が”所有”している不動産についてしか認められません。

Q3.建物が夫Aと他の人との共有の不動産だった場合、妻Bに配偶者居住権は認められますか。

A
残念ながら認められません。配偶者居住権は、残された配偶者が、死亡するまで、無償で家に住み続けることができる権利です。共有者がいる場合まで、これを認めると、他の共有者の権利を侵害することになるので、認められていません。ただし、残された配偶者は、亡くなった配偶者の共有持ち分のうち、自己の相続分を相続しますし、他の共有者と話し合って、賃貸借契約を結ぶなどして住み続けることが考えられます。

Q4.建物が夫Aと妻Bの共有だった場合は、配偶者居住権は認められるか。

A
この場合は、他の人との共有の場合と違い、配偶者居住権を認めても、他の共有者の権利を侵害する恐れがないので、配偶者居住権は認められます。

また、もともと建物が夫婦の共有であった場合、配偶者居住権を認める必要性がないようにも思えますが、実際には、下記のような不都合があるので、配偶者居住権を認める必要性があります。

まず、亡くなった配偶者の共有部分は、残された配偶者以外の相続人が相続する場合があります。そうすると、配偶者と配偶者以外の相続人が建物を共有する状態となります。この場合、配偶者以外の共有者は、建物の一部を所有しているので、配偶者に賃料相当の金銭の支払いを請求(不当利得返還請求権)することが可能になってしまいます。配偶者居住権があれば、このような請求はできず、残された配偶者は保護されます。

また、共有建物は、共有者の一部から共有物分割請求をされる恐れもありますが、配偶者居住権があれば、そのような請求があっても建物に住み続けることができます。

以上の通り、建物が、もともと夫婦の共有である場合にも、配偶者居住権を認める必要性があります。

Q5.妻Bが実際に建物に住んでいなかった場合、配偶者居住権は認められますか。

A
配偶者居住権は、Bが居住していた建物について認められます。従って、実際に住んでいない場合には認められません。しかし、入院等していたため住んでいないが、家財道具などは置いており、退院後に住む予定があった場合などは、生活の本拠としての実態があるので、配偶者居住権は認められると思われます。

Q6.居住建物が店舗兼住宅であった場合、配偶者居住権を取得することができるか。

A
配偶者居住権を認められるために、建物の全部を居住用に使用していたことまでは必要ありません。従って、建物の一部を居住用、一部を店舗として使っている場合も、配偶者居住権は認められます。

Q7.夫Aが居住建物の一部を人に賃貸借(賃料をもらって貸している)している場合は、配偶者居住権を取得できるか。その場合、それまでその建物の一部を借りて住んでいた他人(賃借人)はどうなるか。また、賃料は誰が受け取ることができるのか。

A
建物の一部にでも居住していれば、それ以外の部分を他人に貸していても、配偶者居住権は認められます。

もっとも、賃貸借(賃料をもらって貸している場合)は、賃借人(貸している相手である他人)は、賃借権(賃料を払う代わりにその建物の一部に住む権利)を妻Bにも主張(法律用語では「対抗」という。) することができるので、妻Bは、賃借人を追い出すことはできません。

結局、妻Bは、いままで居住用として使っていた部分のみを居住用として使い、賃貸している部分はそのまま賃借人が借りて住み続けることになります。また、賃料は、賃貸人たる地位を引き継いだ相続人がもらえます。配偶者居住権と賃貸人たる地位(賃料受け取る権利)は、遺産としては別のものなので、妻Bが賃料を受け取れると決まっているわけではありません。具体的には、遺言や遺産分割による話し合いで決めることになります。例えば、遺産分割による話し合いで、妻Bはその建物に住み続け、賃料は、他の相続人が受け取るようにするといったことが考えられます。

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