Aさん65才。夫との間には、長男Bさんがいる。
老後は悠々自適に過ごそうと言っていた矢先に、長男Bさんが経営していた飲食店が大きな負債を抱えて倒産した。長男Bさん自身も、多額の銀行借入の返済ができず、破産することになりそうだ。そんな中、心労が祟ったのか、夫が急死した。夫の家は、元々地主であったので、田舎ではあるが、かなりの土地と、自宅を持っている。息子が継ぐはずの遺産は、どうなってしまうのか。
長い人生の中では、やむを得ない理由により借金が膨大で返せなくなり、破産をする場合もあります。
破産の場合、その人の財産は、借り入れ先に平等に分配するために、裁判所によって選任された管財人により管理されることになります。
この”財産”には、その人が持っている財産はもちろんですが、お父さん、お母さんが、亡くなっており、その名義のままになっている財産がある場合は、破産をする本人の法定相続分に当たる財産も、管財人に没収されることになります。破産をするだいぶ前に、お父さん、お母さんが亡くなって、遺産の名義も変えていない場合では、やむを得ない話です。
一方、このAさんのケースのように、お父さん、お母さんがご健在だったが、破産の準備をしている最中に、亡くなられる場合が割とよくあります。
Aさんの場合、亡くなられたご主人名義の資産は、破産するBさんにも引き継ぐ法定相続分があるので、管財人に没収されることになります。
このままでは、父祖伝来の土地を手放すことにもなりかねませんね。こういった不利益や、相続のトラブルを避けるために相続を放棄する方法をとるこができる場合があります。
被相続人が亡くなってから3か月までは、相続の放棄ができます。Aさんの場合、長男であるBさんが相続の放棄をすれば、亡くなられたご主人名義の資産はBさんが引き継がず、妻であるAさんのみが引き継ぎます。こうすれば、管財人に遺産を没収されることはありません。
ここで気を付けないといけないのは、相続の放棄に期間の制限があること(3ケ月以内に、相続放棄の申述を家庭裁判所にすること)、相続放棄は法律に則ったやり方でしないといけないこと(つまり、家庭裁判所に所定の書式に記載して提出しなければならず、また、戸籍謄本や住民票など一定の添付書類がいる)です。
3か月過ぎた、あるいは、法律で決まった方式に則らず、単に、他の相続人に放棄すると伝えるなどしただけでは、相続放棄したことになりません。
相続放棄の手続きは、やってみると意外に簡単で、相続放棄の申述書も、書き方がそれほど難しいというわけではありませんので、ご自分でされる方も多いようです。もちろん、不安であれば、弁護士に依頼しても構いません。
相続放棄の申述書を家庭裁判所に出して受け付けてもらうと、その後家庭裁判所から、放棄の意思は間違いないか確認の意味で通知が来ることもあります。それに対する回答が終わって、しばらくすると、家庭裁判所から「相続放棄申述受理通知書」という書類が届きます。これが届けば、相続放棄が受理されたということなので、とりあえず安心です。この通知書は、いわゆる「お知らせ」であり、「証明書」ではないので、場合により、家庭裁判所に、相続放棄の申述が受理された証明書の発行が必要な場合もあります。
当たり前のことですが、放棄したにも関わらず親の遺産を使ってしまったなどしていると、あとで、放棄の効果がないとされる場合がありますので、ご注意ください。