事例
ここでは、お父さん(以下「父」)がマンションを持っており、父の財産はマンションしかなく、そこに子供2人のうちの一人(仮に「Aさん」とします)が、タダで住まわせてもらっていたというケースを想定します。
その後、父は死亡し、お母さん(以下「母」)は、それ以前にすでに死亡していたとします。
Aさんには、きょうだい一人(仮に「Bさん」とします)がいました。
マンションは父の遺産なので、Bさんもその半分の権利は主張したいところです。
そこで「とりあえず、Aさんに出て行ってもらいたい」とBさんが考えた場合、簡単に出て行ってもらうことができるでしょうか?

解説
まず、父とAさんとの間には、建物をタダで貸すという契約(使用貸借契約)が結ばれていることになります。
「この契約は、父の死亡により終わってしまうのではないか?」という点が問題となります。終わってしまえば、Aさんは出ていかなくてはいけません。
この点ですが、法律では、借りている人が亡くなった場合に契約は終わりますが、貸している人が死亡しても契約は終わりません。
父が死亡した場合、契約は相続人に引き継がれ、相続人であるAさんがBさんにマンションを貸しているという状態になります。ということで、父が死亡したからという理由では、AさんはBさんを追い出せません。
では、Aさんは、Bさんとの建物をタダで貸すという契約を解除できるでしょうか? タダで貸してあげているのだから、貸している人はいつでも解除できそうな気もします。
しかし、法律はそう単純ではありません。まず、タダで貸す期間を父とAさんとの間で「いつまでですよ」と決めていれば、その期限が来れば、契約は終わります。その一方で「いつまで」といった期限を決めていない場合は、タダで借りているものの、使用目的を達成したといえないと解除ができません。
しかし、建物をタダで借りている場合、使用目的は、もちろん住むため(そこで寝泊まりし、生活するため)です。人間が生きている限り、ずっと寝泊まりし、生活しなければいけませんので、建物をタダで貸している場合「借りた目的が達成できた」とはなかなか言いにくい状態です。
以上のとおり、法律の決まり上は、Aさんは、タダで貸している契約をなかなか解除することができないようになっています。
しかし、これでは、ずっとBさんが遺産である建物に住み続けることができるので不公平でしょう。
そこで、裁判例では「タダで貸したときの事情、借りた人が何年住んでいるか(このケースでは、Aさんが)マンションを返してほしいという必要性などの事情を考えて、解約ができるかどうかを決める」としているものがあります。
いずれにしろ、簡単に解約できることにはなっていないので、要注意です。
このような状況にある場合、できれば、Aさんは、父に頼んで「Bさんにタダでマンションを貸す期間を父が死亡するまで」といった(不確定)期限を付け、そのような契約書の取り交わしをしてもらう、といった工夫が必要です。
しかし、そのような契約はしないまま父が死亡してしまった場合、どうしてもBさんが出ていかない場合は「BさんがAさんにお金を払う代わりに、Bさんがマンション全部をもらう」という遺産分割(「全部価格賠償による代償分割」と言います)という方法があります。しかし、これはBさんがお金を持っていないと実現しません。
そこで、最終手段として遺産分割の調停を起こし、裁判所にマンションを競売して「その売得金をAさんとBさんで分けるといった審判(競売による換価分割の審判)をしてもらう」しかないでしょう。
Bさんはタダでマンションを借りています(使用貸借)が、この権利は、マンションを競売で買った人には対抗できません。その結果、Bさんはマンションを出ていかなければならないことになります。