福岡のA男さん55歳、家業の和菓子店を母と営んでいた。3人きょうだいで、姉B子さんは東京の大学に進学、そのまま結婚し、現在も東京に住んでいる。弟C男さんは、隣県の佐賀で公務員をしている。
先日、母が亡くなり、葬儀で帰省した姉B子さんから「この店、いい場所にあるわよね。売ったら3000万円位でしょ。じゃあ、遺産は3等分で1000万円位ね、現金で頂戴ね」と言われた。
姉の言い分もわかるが、渡せる現金はないし、店を売ることもできない。姉とは何度も話し合ったが、最近では、罵りあうような言い争いの繰り返しで疲れ果ててしまった。
遺産は、当事者通しの話し合いで円満に分けることができればよいのですが、どんなに仲の良かった間柄でも、耳を覆うような言い争いに発展することがあります。こうなってしまう前に、次の段階、すなわち、家庭裁判所での遺産分割調停を利用して、解決を計るのがよいと思います。
A男さんの場合も、これ以上姉のB子さんと話し合っても、骨肉の争いとなり、兄弟の縁すら失いかねないと、遺産分割調停を利用することになりました。
ここで大事なのは、どの裁判所で調停をするかです。
遺産分割調停には、「申立てをする場合の提出先は,相手方の住所地を管轄する家庭裁判所又は当事者が合意で定めた家庭裁判所」という決まりがあります。A男さんの場合、姉B子さんは東京に住んでいますので、東京の家庭裁判所に調停を申し立てなければいけません。A男さんに限らず、親御さんがなくなられる時は、お子さんたちもそれ相応の年になっており、結婚や就職、転勤などで全国のあちこちに分かれて住んでいる場合も多いと思われますが、自分の居住地から離れた場所での調停は、交通費など費用の面だけでなく、移動のためのスケジュール面でも何かと大変です。
そういう意味では、遺産分割調停の場合は、調停を起こすより、相手方に起こされたほうが便利といえるかもしれません。
また、遺産分割調停では、相続人全員が相手方となります。きょうだいがたくさんいて、あちこちに住んでいるときは、全てのきょうだいが相手方になるので、一番近くに住んでいるきょうだいの住所を選んで、そこで調停を起こすこともできます。A男さんの場合、弟C男さんとは、特に争っていませんが、C男さんもまた、相手方となりますので、弟C男さんの居住地である佐賀県の家庭裁判所で申し立てるという選択肢もあります。