Mさんは、夫Tさんの所有するマンションに住んでいたが、夫のTさんが亡くなった。遺産分割の話合いになり、すぐにでもマンションを売却して分けたいと主張した遺族もいたが、結果、Mさんが高齢なことを配慮して亡くなるまでは、現在のマンションに住み続けることが出来るという「配偶者居住権」を取得して落ち着いた。
その後、Mさんは、友人の息子夫婦に、マンションを有料で貸してしまった。Mさんとしては、今のマンションは一人暮らしには広すぎるし、自分が安い手狭なマンションに引っ越せば、浮いたお金を貯金できると考えたからだ。ところが、このことを知った夫の遺族と、それはおかしいと争いになってしまった。
【解説】
結論から先に言いますと、Mさんはマンションを友人の息子夫婦に貸すことはできません。「配偶者居住権」は「所有権」ではないことに留意が必要です。
では、「配偶者居住権」を得た場合に、できること、できないことについて具体的に説明します。
Q1.第三者に建物の一部を有料で貸す(賃貸借)ことができるか。
A.
所有者(建物を引き継いだ相続人)の許可を得ればできますが、許可を得ないで有料で貸すことはできません(1032条3項)。
Q2.第三者に建物の一部を無料で貸す(使用貸借)ことができるか。
A.
所有者(建物を引き継いだ相続人)の許可を得ればできますが、許可を得ない場合は、たとえ無償であっても貸すことはできません(1032条3項)。
Q3.配偶者が、その家族などと一緒に住むことができるか。
A.
配偶者がその家族と一緒にその建物に住むことは、配偶者居住権の内容として当然に予定されていると考えられるので、可能です。
Q4.配偶者居住権(その建物に住む権利)を他人に譲渡することができるか。
A.
配偶者居住権は、配偶者がそれまで住んでいた時と同じ居住環境を維持する権利を与えるもので、当然配偶者がその建物に住み続ける限り認められるものです。配偶者居住権を他人に譲渡する等行為は、上記の趣旨や目的に沿うものではなく、認められません(1038条2項)
Q5.建物を増改築できるか
A.
所有者(建物を引き継いだ相続人)の許可を得ればできますが、許可を得ない場合はできません(1032条3項)。
Q6.それまで店舗兼住居であった場合引き続き店舗部分を店舗として使用できるか
A.
まず、配偶者居住権が及ぶ建物の範囲ですが、建物の全部に対して及びます(1028条1項)。よって、配偶者居住権は、建物の居住用部分に対してだけでなく、店舗用部分に対しても及びます。
次に、店舗用部分について、引き続き店舗として使用できるかですが、配偶者は従前の用法の通りに従って使用収益しなければなりません(1032条1項)。以前から店舗用として使用していた部分を、同様に店舗として使用する場合は、従前の用法と変わっていないので、可能だと思います。ただし、店舗の内容が大きく変わる(たとえば小売りだった店舗をレストランに変える)といたことは、用法を大きく変えていますので、できないと思われます。
Q7.それまで店舗兼住居であったが、夫の死を機に店舗をやめた場合、店舗部分であったところに引き続き居住用として使用ができるか
A.
配偶者居住権は、建物の全部に対して及びます(1028条1項)。よって、建物の居住用部分に対してだけでなく、店舗用部分に対しても及びます。店舗用部分を、店舗をやめて居住用として使うのは、用法違反(1032条1項)とはいえず、配偶者に従前の居住環境を引き続き維持する権利を与えるという法の趣旨にも沿い、民法にも、それまで居住用ではなかった部分を居住用として使用していいことが明記されている(1032条但書)ので、可能です。ただし、居住用として使うために、店舗だったところを居住用に改築する行為は、所有者(建物を引き継いだ相続人)の許可を得ないとできません(1032条3項)。
Q8.それまで住居であったが、一部を店舗として使用できるか。
A.
配偶者は、従前の用法に従って建物を使用しなければなりません(1032条1項)。居住用部分を店舗として使用することは、これに違反します。また、配偶者にそれまでと同じ居住環境に住み続ける権利を与えるという法の趣旨にも反します。従って、できません。
Q9.所有者(建物を引き継いだ相続人)の許可を得ずに有償で貸したり、店舗でないところを新たに店舗として使用したり、無断で改築したりした場合はどうなるか。
A.
所有者(建物を引き継いだ相続人)は、配偶者が無断で上記のようなことをした場合、それをやめるように(改築した場合は元に戻すように)要求できます。また、一定の期間内に、配偶者に要求に応じるように催告し、配偶者がその期間内に応じない場合は、配偶者居住権を消滅させることができます。こうなってしまうと配偶者はその建物から出ていかなければなりません。