跡継ぎ遺言は要注意!!

相談者のMさんは、70歳を超え、終活を真剣に考え始めた。Mさんは現在、再婚した妻Yさんと二人暮らしだが、死別した前妻との間に3人の子どもがいる。Yさんとの間に子どもはない。

Mさんの自宅は、古いながらも都心の一等地にあり、売却すればかなりの額になる。Mさんとしては、自分の死後も妻が安心して暮らせように、自宅は妻に残し、妻が亡くなったあと、自宅を売却して3人の子どもが平等に分けて欲しいという内容の遺言書を作ろうと考えている。

後継ぎ遺言(後継遺言)の例

【解説】

上記のように、ある遺産を妻に相続させ、妻の死亡後は子に相続させるという二段構えの遺言書を後継ぎ遺言(後継遺言)といいます。

注意が必要なのは、後継遺言が有効かについては、争いがあり、有効とも無効とも明確に判断した判例がないということです。

例えば、Mさんの場合、妻Yさんが亡くなり、3人の子どもがMさんの遺言書に基づき、遺産である自宅不動産を自分たちの所有として登記しようとしたとします。しかし妻Yさんの相続人である、Yさんの兄Xさんが、自宅不動産はMさんの遺言により既にYのものになった。Yさんが死亡したことで、Yの相続人、すなわち兄であるXに相続権があり、Yと親族関係にない3人の子らに相続分はないと主張された場合、争いになります。

判例においては、実際に争いになった事例がありますので、ご紹介します。

この判例では、夫は自宅不動産を妻に相続させ、妻の死亡後に夫の兄弟に相続させるという遺言書を書いていましたが、妻が亡くなる前に、妻と夫の兄弟姉妹らの間で、裁判が起こってしまいました。

この事案では、妻も夫の兄弟姉妹もそれぞれ、自宅不動産は自分たちが相続したので自分たちに所有権移転登記をすべき、と訴えたのです。福岡高裁(昭和55年 6月26日判決)は、上記の遺言書について、「妻の死亡後に夫の兄弟に相続させる。」という部分は無効で、妻に単純遺贈したものであるとしました(したがって、夫の兄弟姉妹には何の権限もなく、従って妻の死亡後には妻が遺言書を書いていない場合は妻の兄弟姉妹が相続してしまう。)。

この事案は上告され、上告審において最高裁(S58.3.18)は、もっと良く審理するようにといって事件を福岡高裁に差し戻し、福岡高裁の判断を否定しています。

上記の通り、後継ぎ遺言をすれば、その遺言の解釈をめぐって、相続人らがそれぞれ自分たちに有利な解釈をして、自分勝手な主張を始め、対立のもとになりかねません。

つまり、Mさんの場合も、後継ぎ遺贈の解釈としては、

  • 妻Yさんに、Yさんが亡くなった後は子A,B,Cらに相続させるという義務を課した負担付遺贈である
  • 実際にはA,B,Cらに相続させたもので、妻Yさんは死亡するまでの間、自宅不動産に住んでよいという権利を与えられたにすぎない
  • 妻Yさんが死亡した後という不確定期限を定めた子A,B,Cらへの遺贈である

といった理屈をつけて、子A,B,Cらに所有権が行くように解釈する考えもあります。

しかし、上記の福岡高裁のように、

  • 妻Yさんに相続させるという部分のみ有効で、Yさん死亡後に●●に相続させるといった部分は無効である。
  • 遺言書全体が無効である。

といった判断をされる余地も十分にあります。

例えば、Mさんが妻Yさんへ相続させるという部分のみ有効で、Yさん子A,B,Cらに相続させるという部分は無効であるという判断(上記の福岡高裁の判断)をされると、YさんとA,B,Cらには、親子関係がないので、YさんがA,B,Cらに遺贈するという遺言書を書かない限り、A,B,Cには自宅不動産を相続する権利はなく、Yさんの死亡後、自宅不動産は、Yさんの親族(この場合、Yさんには子どもがいないので、Yさんの兄弟姉妹が相続人になる。)に権利が移ってしまいます。

後継ぎ遺言は、上記の通り、相続人らが自分に有利な解釈をして自分勝手な主張をすることにより争いになる恐れがあり、また、Mさんの意図した通りの妻Yさん死亡後に子らが自宅不動産を相続するという結果にならない恐れがあります。

よって、後継ぎ遺言は、上記のようにまずは後妻、次に子に相続させたい場面であっても、それ以外の場面(例えば最初に何人かいるうちの一人の子、その後はその子の子(孫)に相続させたい)といった場面でも、すべきではありません。

Mさんのケースは、Mさんの意図としては、妻Yさんが亡くなるまでは、妻Yさんに自宅不動産に住まわせ、Yさんが生活に困らないようにしたうえで、最終的には実子のA,B,Cらに相続させるというものだと思います。

そうであれば、端的にA,B,Cらに相続させるという遺言を書くべきです。Yさんの生活の維持のためを思うなら、子らにYさんが死亡するまではYさんに無償で自宅不動産を貸すという義務を課す、負担付遺贈などのほうがまだ無難です。

また、令和元年7月1日に改正相続法が施行され、配偶者居住権という権利が創設されました。配偶者居住権は、Mさんが死亡した時に当該不動産に居住していたYさんは、Yさんが死亡するまで無償で自宅不動産に住み続けることができるという権利です。Mさんは遺言書で、配偶者居住権をYさんに与えることが可能です。

この場合、Mさんは、自宅不動産を子A,B,Cらに相続させる、配偶者居住権をYさんに遺贈する、という遺言書を書けばいいです。そうすれば、Mさんの意図に反して、Yさんの兄弟姉妹に不動産を持って行かれる、といった心配はなくなりますし、YさんはMさんの死亡後も、安心して居住不動産に住み続けることができます。

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