M田さん(75才)には、3人の子供がある。経営していた材木店を長男Aさんに継がせ、すでに引退している。Aさんの子、つまりM田さんの孫であるBさんも材木店を手伝っているが、人望もあり、経営手腕もなかなかのものなので、行く行くは孫のBさんが継いでくれればと望んでいる。
しかし、M田さんは、孫が材木店を継いでくれても、もし自分が死んだら、長男であるAさん以外の二人の子どもが遺産が欲しいと言ってくるに違いないことに悩んでいる。M田さんの資産は、営んでいる材木店の店舗不動産が主なもので、運転資金のほか若干の預貯金があるが、遺産分けするとおそらく材木店の経営を継続することは難しい状態となるに違いない。
なんとか、資産を孫のBさんだけに継がせることはできないだろうか。
まずは遺言を書きましょう。
M田さんの場合は、長男Aさんに全財産を相続させるでもいいし、孫Bさんに全財産を相続させるでも構いません。
ただし、M田さんが、遺産はAに相続させ、A死亡後はBに相続させる、という遺言書は書けません。M田さんが遺産をAに相続させるという遺言は勿論できますが、いったんAさんが引き継いだ財産をどうするかは、Aさんに権限があるので、Bさんが遺言で決めることはできません。この場合はM田さんがAさんに全財産相続させる、AさんがBさんに全財産を相続させるという遺言書をそれぞれ書くことです。
遺言を書いたときの注意点は、長男Aさん以外のM田さんの二人の子どもにも遺留分があることです。
民法には、生前に相続人に遺留分の放棄をしてもらう制度があるので(民法1049条)、お二人が納得して遺留分の放棄をすれば問題はないでしょう。
しかし、遺留分を生前に放棄していない限り、残った二人の子供には遺留分(3人兄弟なら6分の1ずつ)があり、請求してきたら、これを払うのは避けられません。
遺留分を減らす手段としては、M田さんの場合、孫Bさんが事業も引き継いでいるのなら、その孫を養子にするという方法も考えられます。
こうすれば、子供は4人ということになり、遺留分はそれぞれ8分の1ずつに減らせるわけです。
また、M田さんの事業を長男Aさんや、孫のBさんが引き継いで事業をしている場合、M田さんの財産が維持されている、または増加させていることに一役買ったということで、寄与分(民法904条の2)を請求することができます。この場合、きょうだいで話し合って寄与分がいくらかを決め、寄与分に当たる財産は、Aさん、Bさんが先取りして、残った財産を、Aさん、(M田さんの養子になっていれば)Bさん、ほかのきょうだい二人で分けることになります。こうすれば、Aさん、Bさんの取り分は増えます。ただし、寄与分について、きょうだい間で話し合いがつかなければ、裁判所に寄与分を定める調停を申し立てる必要があります。この寄与分を求める調停は、遺産分割調停をしている場合にも、別途申し立てる必要があります。この場合、遺産分割調停と、寄与分を定める調停が並行して行われます。
いずれにしろ、上記のようなケースでは、遺留分減殺請求がされることを前提に、請求されたらどうやって払うかの資金の手当てをあらかじめしておくことです。
M田さんのように、相続という面だけでなく、事業承継という点からも、事案により様々なご提案が考えられます。ぜひ、専門家である弁護士のご相談ください。