シングルマザーのK子さん。ご主人(A男さん)は10年前に交通事故で他界しており、今は、高校生の息子と中学生の娘と暮らしている。
ご主人の実家が遠方にあることもあり、いまではすっかり疎遠になっている。その実家から、義父が亡くなったとの連絡があった。葬儀も無事終わり、遺産の話になったが、義姉から「うちは三人兄弟だけど、A男はもう亡くなっているんだから、K子さんにうちの財産を渡すつもりはない」と言われている。
主人は亡くなったとはいえ、これからの子供たちの学資などもあり、遺産はもらえるものなら、もらいたいと思っている。
亡くなった夫がもらえる分の遺産は、妻はもらえないのでしょうか?
夫(妻)が亡くなったあとに、その夫(妻)の親御さんが亡くなった場合、相続関係はどうなるでしょうか。
この説明をする前に、夫(妻)とその両親が、年齢順に亡くなった場合がどうなるかを、簡単に説明しておきます。
この場合は、遺言書があれば、その通りに分けます。相続人や受遺者(遺言書で遺産をもらう人のこと。相続人以外の人がもらう場合もあります)全員が同意すれば、遺言書と違った分け方もできます。
遺言書がなければ、ご両親の子供さんが、ご両親の遺産を、法律が決めている法定相続分により、つまり同じ割合で相続します。
仮に、夫(妻)が3人きょうだいであれば、3分の1程度は引き継ぐことができます。その後、夫(妻)が亡くなったとしても、ご両親から引き継いだ遺産は、すでにその夫(妻)のものになっているので、それを残った夫(妻)や子供が引き継ぎます。
では、ご両親より先に亡くなってしまったA男さんの場合は、どうなるでしょうか。
この場合、確かにK子さんにはA男さんのご両親の相続分はありません。しかし、A男さんの子供たちが、亡くなったA男さんの代わりに相続人(代襲相続)となります。A男さんは三人きょうだいでしたので、ご両親が残された遺産の3分の1を引き継ぐ権利がありました。A男さんはすでに亡くなっていますが、二人の子供が、それぞれ6分の1ずつ、あわせて3分の1を相続することになります。
この後、ご主人のご実家と交渉し、ご納得いただいた上で円満に解決することが出来ました。
しかし、ご夫婦に子供がいる場合と、いない場合では大きな違いがありますので、ここで触れておきたいと思います。
夫婦の間に子供がいない場合、夫(妻)は、亡くなった夫(妻)のご両親の遺産を引き継ぐことができません。もし、A男さんに子供がいなければ、ご両親の遺産はA男さんのふたりのご兄弟で分けることになったわけです。つまり、ご夫婦に子供がいない場合は、夫のご両親が先に亡くなったときと、夫が先に亡くなったときとで、まったく結果が違うのです。
このような事態を避けるには、①夫(妻)が予めご両親に頼んで、自分の配偶者にも遺産がもらえるという内容の遺言書を書いてもらう、あるいは、②ご両親が生前に子供の配偶者に財産の一部を贈与する、③ご両親がご健在のうちに、遺産の一部を分けておくなどの工夫が必要です。 生前に財産を分けると贈与税がかかり、相続税に比べると多くの税金を納めないといけなくなりますが、相続時精算課税を使うと、贈与時には税金を払わず、相続時に、生前贈与を相続税の一部として納めることができます。ただし、相続時精算課税制度は金額に上限がありますので、詳細については弁護士など専門家にご相談ください。