亡くなった父の遺品を整理していたAさんは、金庫の中から、数冊の預金通帳と、遺言と書かれた白い封筒を見つけた。父から遺言の話は聞いたこともないが、筆跡は父のものだと思われる。開封したところ、Aさんに預金の半分と自宅を譲り、弟Bさんには預金の半分を譲ると記載があった。弟Bさんに話したところ、「父は生前、自宅は自分に譲ると言っていた、その遺言書は兄さんが細工しただろう」と争いになってしまった。
ドラマや小説でもよくあるようなシーンですね。ご自分の遺産をこうやって分けてほしい、という希望がある場合、遺言書を書くわけですが、遺言書には、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言があります。
このうち、自筆証書遺言は、遺言書を書く人が、自筆で書く遺言書で、専門家には相談せず、ご自分で書いている場合が殆どなので、家族にも遺言書を書いていることを伝えていないケースも多く、金庫の中、机の引き出し、仏壇の引き出しなどから、ひょっこり出てくることがあります。
出てきた遺言書が、自筆証書遺言として認められるには、いろいろ要件があり、場合によっては、要件を欠いて無効となったり、自分に不利な内容が記載されていた相続人が、親の自筆でないとか、親の印鑑ではないなどと争ってきてトラブルになる場合もあります。
とにかく、封をしてある封筒に入った遺言書を見つけても、Aさんのように慌てて開けないことが肝心です。
まず、自筆証書遺言が出てきたら、家庭裁判所に検認の申し立てをしてください。ご自身での申立が難しいと思ったら、封を開けない状態で、弁護士に相談してください。弁護士に、検認の申立てを依頼することが可能です。
仮に、うっかり開封しても、遺言書が直ちに無効になることはありませんし、検認の申立てもできますが、検認前に開けてしまうと、「ほかに紙が入っていたのではないか」とか「紙をすり替えてないか」など、争いの原因になることもありますので、中身を見たいという気持ちはよくわかりますが、まずは、封を開けずにおいて、家庭裁判所で検認の場で、初めて中身を見ることです。
家庭裁判所に申立てると、検認する日付が決まり、相続人全員に呼出し状が来ます。もちろん、相続人が来ないケースもあります。この場合、検認は、申立てた人のみ立ち会って行います。いずれにしろ、検認をする日時を教えて、相続人に検認に立ち会う機会を与えたという事実が重要です。教えたのに来なかったのだから、後で文句を言わないように、ということです。
検認に指定された日に、自筆証書遺言をもって家庭裁判所に行くと、まず、その場で開封をします。裁判官が中身を確かめ、立会人に若干の聞き取り(例えば、封筒の印鑑と筆跡、遺言書の印鑑と筆跡が本人のものか、など)がされます。
検認が終わると、家庭裁判所が、自筆証書遺言を用紙に貼り、裁判所の押印をして、間違いなく検認したという証明を付けてくれます。
また、検認調書というものも作ってくれます。検認調書には、検認の日に立会人に聞きとった事項、遺言書の形状などが記載され、遺言書のコピーも添付されます。
このような、検認済みの自筆証書遺言、又は検認調書があれば、預貯金の解約や、遺言書記載の通りの不動産の登記ができますし、言い換えると検認されていない遺言書では、これらの手続きに応じてもらえないということです。