事例
お父さんが亡くなり、お母さんは先に亡くなっており、お父さん((以下「父」といいます。)の遺産を父の子供Aさん、Bさん、Cさんで分ける場合を想定します。
仮にAさんが、父が所有していた建物にタダで住まわせてもらっていた場合(使用貸借)、Aさんは、その分の家賃を払わなくていいから得をしています。
その一方で、Bさん、Cさんは、自分で家賃を払って住んでいたとします。
その場合、Bさんは、Cさんは、Aさんが自分たちに比べて得をしているから、その分、Aさんの相続分を減らし、自分たちの相続分を増やしてもらいたいと思うかもしれません。

解説
このように、被相続人(本ケースでは父)から、生前に何かもらっていた場合(生前贈与)、もらっていた相続人(本ケースではAさん)の相続分を減らして、平等にしようという考えがあります。
これを法律用語で「特別受益の持ち戻し」といいます。
この制度では、生前贈与(または遺言書)で特定の相続人が特定の遺産をもらった場合も、それらの遺産はもらっていなかったものと仮定し、それらの遺産も含めて全部の遺産(みなし相続財産という)が一体いくらだったのか?を計算し、それを法定相続分で割り、各相続人の本来の取り分の金額を計算します。
生前贈与や遺言で財産をもらった人は、それらの財産は、そのままもらっておいていいのです。しかし、仮にもらった財産の額が、本来の取り分の金額を超えていたら、それ以上はもらえず、逆に取り分に満たない財産しかもらっていない相続人は、まだ誰のものとも決まっていない(まだ分けていない)遺産から、優先して遺産をもらえます。
さて、話をさっきの事案に戻します。
父からタダで家に住まわせてもらっていたAさんですが、父の生前に遺産をもらっていたとみなされるでしょうか?
答えはNOです。
何か、不公平な気もしますが、建物にタダで住まわせてもらっていた(使用貸借)の場合は、恩恵的な側面が強く、財産を生前にもらっていたというほどのこともありません。
そのため、Aさんは、生前に財産をもらっていたとはみなされません。つまり、もらえる遺産を減らされることはなく、Bさん、Cさんと同じ取り分の相続財産をもらえます。
これが、もし土地をタダで貸してもらっていた相続人がいたら、話は別で、父の生前に財産をもらっていた(生前贈与)とみなされます。
これは、別の記事で書かせていただく予定です。